第20回公演J.オッフェンバック
「美しきエレーヌ」
全3幕(日本語訳詞上演)
オペレッタプロジェクト15
2008.6.22(日)午後2時開演
新宿区立新宿文化センター 大ホール
スタッフ
芸術監督/制作統括/演出:八木原 良貴
音楽監督/指揮:野町 琢爾
舞踊監督/振付:藤井 明子
美術監督:長谷部 和也
演出補:内藤 明日香
衣裳:小森 純子/久保 直子/原 美緒
特殊衣裳: 鳥越 久美子/榎本 祥子
照明: 寺西 岳雄(マーキュリー)
音響: 小山 和男(ワンダースリー)
ヘア&メイク: 松本 良輔(ラルテ)
翻訳/訳詞: 三浦 真弓大道具: 桜井 俊郎(C-COM)小道具: 田代 道夫(高津装飾美術株式会社)制作補: 齋藤 昭典/君島 由美子/橋本 修一練習会場手配: 榎本 祥子/北 教之 杉浦まり/内藤 明日香 上岡 万里子合宿手配: 藤本 純也配券手配: 笠原 江理子 /佐藤 尚之
高橋 佳子/蘆田 幸恵練習ピアノ: 榎本 祥子/榎本 健太郎記録: 岡野 肇 (まじかるふぇいす)会計: 宮崎 健司/橋本 修一事務局長: 藤澤 寧都
キャスト
エレーヌ(メネラウスの妃) 大津佐知子
パリス(トロイア王プリアモスの王子) 丹下 知浩
メネラウス(スパルタ王) 八木原良貴
アガメムノン(メネラウスの兄アルゴス王、王の中の王) 林 猛
カルカス(ジュピター神殿の大司祭) 北 教之
オレステス(アガメムノンの息子) 小柴 亜希子
アキレス(プティア王) 利根川聡
アイアスⅠ(サラミス王、別名大アイアス) 小宮山 弘樹
アイアスⅡ(ロクリス王、別名小アイアス) 齋藤 昭典
バッキス(エレーヌの侍女) 水野ゆり
レーナ(コリントの遊女、オレステスのお友達) 君島 由美子
パルテニス(コリントの遊女、オレステスのお友達) 宮崎 健司
フィロコム(アポロン神殿の召使、カルカスの腹心) 山﨑 大作ミネルヴァ(女神) 松原 礼子
ヴェニュス(女神) 藤井 明子
ジュノー(女神)茂木 理英子
エリス(女神)/白鳥荻島 あずさ
ペレウス(テッサリア王) 利根川 聡
テティス(海のニンフ) 越智 伊穂里
エウテュクレス(鍛冶屋) 長谷部 和也
奴隷(エレーヌの召使い)笠原 江里子
DJ(FMスパルタ)小林靖広
エレーヌ(幼少)北 陽菜子
ごあいさつ
ガレリア座は過去に《ホフマン物語》《天国と地獄》を上演している。いずれも作曲家はジャック・オッフェンバック(1819〜1880)。《美しきエレーヌ》は3作目。オペレッタ大好きの私が主宰だからヨハン・シュトラウスが多い(抜粋も含めて過去5回)のは仕方ないとしても、オッフェンバックはその次。何が魅力か問われれば、陽気な音楽が一番。《天国と地獄》をやったときは小さな子どもたちが客席で踊っていたっていうから嬉しい。3時間近くやっても飽きない子どもたち!二番目はパロディの精神にあふれているところ。オッフェンバックはユーモアに溢れた皮肉屋だった。音楽でも生き方でも。彼の時代、国家助成を受けている劇場を自由競争から守るという目的で、劇場に出演できる人数が規則で決められていた(現代の規制緩和論、ふふ、笑っちゃうね!)。彼の劇場ブッフ座では俳優が4人まで。なのにオッフェンバックは5人目を登場させる。サラセン人に舌を切られ言葉を話せない可哀そうな役。台詞はプラカードに書いて持たせたらしい。これがウケた。皮肉られた大臣までも大笑い。ついに皇帝が乗り出して人数規制を撤廃。オッフェンバックは自由に何人でも人物を登場させられるようになる。そこで生まれた傑作がフレンチカンカンで有名な《天国と地獄》だった。
《美しきエレーヌ》にはそんなパロディがいっぱい登場する。当時、フランスで大流行していたオペラ作曲家マイヤベーアの仰々しく大げさな作品を思わせるのが、第一幕で登場するギリシャ国王たちの行進。《ローエングリン》では“白鳥”がやってくるのを、《エレーヌ》では“鳩”を登場させてワーグナーを皮肉った。(今回の演出では両方登場)。また、自作の《天国と地獄》までもパロディの対象にして、音楽の各所に散りばめている(モーツァルトが《ドン・ジョヴァンニ》の中で“もう飛ぶまいぞ、この蝶々”を出したように)。さらに私は性懲りもなく、オペレッタ作曲家だったオッフェンバックがどうしても書きたかったオペラ《ホフマン物語》まで演出に引っ張り込んだ。《エレーヌ》の音楽稽古中に感じた《ホフマン物語》への予兆。それを何とか視覚化したかったのだ。きっとオッフェンバックは許してくれる。いや、もろ手を挙げて賛成してくれるんじゃないかな。でかした、ガレリア座!って。まあ、団員からはいつもの我がままと受け取られているのだけれど(笑)。そんな主宰の勝手をよそに、今回の舞台も団員一同、楽しく歌い演じます。ついに公演回数20回。あきれて見ていた周囲の状況も今では一変。継続は力なり…本当ですね。どうぞ最後までお楽しみください。本日はご来場ありがとうございました。
・・・・・ガレリア座主宰 八木原 良貴
あらすじ
オリュンポスでは神々が集まり、海のニンフ、テティスとテッサリア王ペレウスの結婚を祝っていたが、不和の女神エリスだけはその宴に招かれなかった。怒ったエリスは宴席に「一番美しい方へ」と記した黄金のリンゴを投げ込んだ。それを見つけたミネルヴァ、ジュノー、ヴェニュスがリンゴを取り合って争いを起こすと、神々の王ジュピターはトロイアの王子パリスにその決着を委ねたのだった。イダの山中で3人の女神たちはそれぞれ、自分を選んでくれたら褒美をあげようとパリスに迫り、ミネルヴァは戦での勝利を、ジュノーは広い領土を約束した。しかしパリスが選んだのは「世界一美しい人間の女」をと申し出たヴェニュスであった。その女こそがこの物語のヒロイン、エレーヌである。【第1幕】ジュピター神殿
今日はアドニス祭。人間でありながら女神ヴェニュスと恋に落ちた美少年アドニスの死を悼み、女神を慰めるお祭りの日である。ジュピター神殿には人々が集まり祈りを捧げている<この手に貢物たずさえ>。しかし大神官カルカスは不満顔だ。かつての貢物と言えば牛や羊であったのに今は野に咲く花ばかり。一方で鍛冶屋のエウテュクレスには高額な“雷”の修理代を請求される。ジュピターの威信を保つための設備投資とは言え、これでは商売上がったりだとこぼす。そこへ祭祀を司るために、王妃エレーヌが泣き女を伴って現れる。アドニスの死を嘆く女たちに、エレーヌは燃える恋への憧れを歌う<理想の恋人よ…>。夫メネラウスとの結婚生活に退屈している彼女は、世界一美しい女=自分がヴェニュスの褒美としてパリスに与えられると聞いて大喜びなのだ。王妃が去ると、祭り見物ついでにカルカスをからかって遊ぼうと、アガメムノン王の息子オレステスが取り巻きの娼婦を連れてやって来る<夕べも飲んですっかり酔って!>。
さんざん小突きまわされたカルカスが一人でぼやいていると、今度は一人の羊飼いが現れて鳩を知らないかと尋ねる。そこへ飛んできた鳩が運んできたのは、パリスとエレーヌの仲を取り持つようにと指示した、ヴェニュスからの手紙であった。目の前の羊飼いがパリスその人だと知ったカルカスは大喜び。イダ山での一部始終を聞かせてくれとせがみ、パリスも気前よく求めに応じ歌う<イダ山の森では3人の女神が>。感激したカルカスは早速パリスをエレーヌに引き合わせる。一目で惹かれあうふたりだったが、ギリシャ王たちのパレード<偉大なるギリシャの5人の王たち>が始まり、再会を約束してその場を離れる。
王たちを迎えて式典が始まるが、彼らはいずれ劣らぬ珍妙ぶり。知性を競うコンテストでも的外れな答えばかり。そこへパリスが登場。見事に3問のなぞなぞに答えてみせるので、人々は口々にパリスを讃える<勝った!勝った!>。身分を明かし王宮に招かれたパリスは邪魔なメネラウスを遠ざけるようカルカスに頼む。カルカスは雷を鳴らし、メネラウスに4週間クレタ島へ出かけるよう、偽の神託を告げる。まんまと騙されたメネラウスは、皆に急かされ一人旅立つのだった。
【第2幕】エレーヌの屋敷
首尾よくメネラウスを遠ざけたパリスだったが、当のエレーヌは貞操を守ると言って彼を受け入れない。王たちを招いての晩餐会にも粗末な衣装で出席すると言い張り、バッキスと後宮の女官たちにたしなめられる<晴れの日のお客さまに>。パリスへの思いと王妃の立場に挟まれたエレーヌは、美しく生まれたばかりに運命に翻弄されるのだと歌う<私はレダの娘>。そんなエレーヌの前にパリスが現れ、自分には策略があると告げて去る。そのころ広間では王たちと人々が集まり、双六ゲームが始まろうとしていた<王様の賭けだ!>。神官でありながら金に目がないカルカスは、王たちから掛け金をとるとサイコロをすり替えて一人勝ちを狙う<あの祈りが通じたら>。しかしあっさりイカサマを見破られると金を持ち逃げしてしまう。騒ぎに疲れたエレーヌは横になり、人に咎められないよう、夢の中でパリスに逢わせてくれとカルカスに頼む。そこへ奴隷に変装したパリスが忍びこみ、あらためて彼女の美しさに心打たれる<一人眠る美しい人よ>。目を覚ましたエレーヌはパリスを見て、カルカスが約束どおり夢を見せてくれたのだと喜ぶ。二人は夢の中でなら許されると愛を交わす<めぐり逢えた>。そこへ突然メネラウスが帰還する。二人が一緒にいるのに驚いた彼は人々を呼ぶ<皆集まるのだ!皆!>。やってきた人々は怒るメネラウスに怪訝な顔をし、挙句に知らせも無く帰ってくる方が悪いのだと彼を非難する始末。メネラウスがギリシャの誇りは何所へ行ったのだ?!と問うと態度を一変。不埒者は出て行けとパリスに迫る。パリスはヴェニュスの神託に従った自分こそ正義だと挑むが、エレーヌに逃げるよう促されてその場を後にする。
【第3幕】ナウプリア海岸リゾート
世界一の美女エレーヌをパリスに与えるはずが、メネラウスに邪魔をされて怒ったヴェニュスは、ギリシャに天罰を下した。人々は道徳を忘れ、夫や妻を捨て、酒と恋に興じるのだった<出せ!飲め!酔え!舞え!>。そんな中、唯一人エレーヌだけは恋路を邪魔されたうえ、夫に付きまとわれて苛立っていた。おどおどとパリスとの仲を尋ねる夫に、夢の中で恋をしただけだと言い放つ<何が悪いというの?!>。それを聞いたアガメムノンとカルカスは、お前が妻を諦めて犠牲にならなければギリシャ全土が壊滅すると歌う<偉大なる我がギリシャに蔓延る災い!>。しかしメネラウスはエレーヌを失わずにギリシャを救おうと、ヴェニュスの神殿があるシテール島から大神官を招いていた。自分の地位が危うくなるとふて腐れるカルカスをよそに、王たちと人々はシテールの大神官を迎え、跪き神妙に許しを請う<貴方の足もとにひれ伏して>。
ところがこの神官、お祭り好きのヴェニュスには泣き落としよりも派手にやった方がよろしいと、皆を扇動して踊りまわる。アガメムノンが、どうすればヴェニュスの怒りが収まるかと尋ねると、大神官は、王妃が自らシテール島に赴き雌牛を捧げればよいと答える。喜ぶ一同。そこへエレーヌがやって来る<あれに来る我らが王妃>。彼女は、シテール島へ行って女神の怒りを鎮めてくれと頼むメネラウスを突っぱねるが、シテールの神官が実はパリスだと気付き、すべてを納得。彼女がわざと行きたくない素振りを見せると、慌てた人々はシテール行きの船に乗るよう懇願する。エレーヌを連れて船に乗り込んだパリスは自らの正体を明かす。謀られたと驚く一同だが、それが運命なら仕方ないと諦めて二人を見送る。ついに結ばれたエレーヌとパリスは幸福に満ち、二人きりで旅立つ。その先にトロイア戦争という恐ろしい運命が待っているとも知らずに。